九月半ばにもなると、朝の風は幾分涼しくなってきた。


矢央はうずくまっていた布団から頭を出すと、辺りに既に布団はなく、皆が起床しているのに気づいた。



「あっ、矢央ちゃん起きた?」



寝ぼけた頭に優しい声がする。

何処から(?)と、キョロキョロする矢央。


声をかけた本人は、見当違いな場所を探す矢央が可笑しくて仕方ない様子に笑う。



「こっちだよ」

「ん?」


また声がした。

左右ばかり見ていた矢央、今度はハッキリした意識の中で声を辿る。


上からだ。


うつ伏せだった矢央は、上からする声の主を確認するために体の位置ズラし見上げた。

すると「やあ!」と、久しい顔が矢央を跨った状態で見下ろしていた。


「と…藤堂さん!」


最近の藤堂は、近藤に用事を頼まれたり任務だったりして、あまり屯所にいないことが多かった。


自分を一番構ってくれる藤堂がいないことに寂しく思っていた矢央は、久しぶり心からの笑顔を見せる。



「おかえりなさい! いつ帰って来たの?」

「ついさっきだよ。 一番に矢央ちゃんに会いに来たんだ」


藤堂の股下から這い出た矢央は、満面の笑みで藤堂を見上げた。


言われてみれば、まだ旅支度のままだ。


「えへへっ! 一気に目覚めちゃった! 藤堂さん、今日は屯所にいる?」


照れ笑いする矢央の姿は、久しぶりに見る年相応な愛らしさがある。


矢央の問いに、にっこりと微笑みながら頭を撫でてやる藤堂。

「今日は非番にしてもらわなきゃ、さすがに死んじゃうって」

二日間は馬を走らせていたんだから、と疲れ気味に笑った。


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