「礼を言われた気がして振り返ったんだ……」
ゴキュン……
怖いはずなのに、耳から少しだけ手を外したまま矢央は原田を見つめている。
喉が揺れた。
来る来る来るぞーっ!
「いなかったんだろ?」
「――――なっ! 新八ぃぃっ、お前先に言うなよ―――っ!」
「えっ? えっ?」
お礼を言われて振り返った原田が見たもの、それは老婆の姿ではなく水溜まりに落ちた傘だけだった。
さっきまでいたはずの老婆が、ものの数秒で姿を消したなんてあり得るはずがなく。
それをネタに驚かせるはずだった原田は、大欠伸をする永倉の口の中に拳を突っ込もうとする。
「新八のバカヤローっ!!」
「いへぇたろふぅがぁぁぁっ!」
痛いだろうがっ!と、言いたいらしいが伝わらずだ。
永倉は原田に羽交い締めにされたまま、いじられていた。
その様子を呆然と眺めていた矢央に気づいた藤堂が、矢央の顔の前で手をブラブラさせている。
「おーい? 矢央ちゃーん?」
「……今のって、幽霊だったんですかね?」
「今の? ……ああ、左之さんの話? まあ、一応そう言う話だから、そうなんじゃないのかな」
未だにじゃれ合うむさ苦しい男達に目を向け、苦笑いする藤堂。
の隣では、ガクンッと畳に手をつく矢央がいた。
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