悩む矢央に更に追い討ちとばかりに、門から近藤と土方がヒソヒソと話をしながらやってきた。


思わず物影に身を隠してしまった矢央は、聞きたくなかった会話を耳にしてしまう。



「いやはや、芹沢さんには困ったものだ。 大人しくしておいてくれればいいんだがな……」

「何を甘いことを。 いいか、近藤さん、この件は芹沢さんにとっちゃ破滅へと自らを追い込んだに過ぎねぇんだ、あんたが気にするこっちゃねぇ」


「…しかし、歳よ。 本当に芹沢さんを?」


袖から腕を出し顎をさすりニヤリと笑った土方。


矢央は、息を潜めるのに必死になっていた。


「端から言ってんだろ。 芹沢さんは利用するだけだ、浪士組に二つの頂点はいらねぇんだよ。邪魔者は……始末する。 そんだけだ」


――――ドクンッ!


邪魔者………

土方までも、邪魔者という言葉を発した。


まさかまさか、と体がカタカタと震える。



「うむ。 俺は、歳を信用しているよ」


近藤は策士である土方がしようとすることを信用しつくしている。

土方と共に、名を残そうと。

土方がいれば、大丈夫だと。


相当の信頼を受けていた土方は、面白い程流れが自分に向くことを笑っていた。



「もう少しだ。 もう少し踊らせりゃ、あちらさんから墓穴を掘るはめになるだろうよ」



月夜に照らされた土方の端正な顔が、この日は恐ろしく見えた。


『一体、鬼はどちらはんやろうねぇ』


まさしく、鬼。


綺麗すぎる鬼は、とても恐ろしいものに思えてならなかった――――――






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