「芹沢はんっ、何をなさるんです!」


一条葭屋にある生糸商大和の主は、店前に隊士数十名を連れた芹沢に言った。


既にただ事ではない気配に、辺りは人集りまで出来てしまっている。


「暴徒に差し出す金があるのにも関わらず、我々には出せぬか? 主よ」


べちっと鉄扇を頬に張り付けた芹沢の顔は恐ろしく残酷だった。


金に貧しくなった芹沢らは豪商大和屋に「金を差し出せ」と、何度か主を訪ねたが

いつも主は不在と、あしらわれていた。


だが、後日聞く話では大和屋が過激派に金を渡していたと知った芹沢は、それに激怒。



そして、この度の襲撃へと繋がった。


主は、おどおどとするばかり。


「堪忍しておくれやすっ」

「市中警護に日々汗を流し、京の民のために働く我らに出せぬことはなかろう?」

「堪忍しておくれやすっ。 芹沢はん、今日のところは…」


これは、脅しだ。

浪士組に逆らうなと、芹沢は主を使い見せしめにしている。


「ほお」と、一層顔を無表情に近づける芹沢は、前方大和屋に鉄扇を向けた。



「やれ」


一言、芹沢がそう言ったと同時に隊士らは蔵に向かって火を放った――――――



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