永倉にからかわれていた矢央は、ふと誰かに呼ばれたような気がして振り返った。


そんな矢央を見て、永倉は眉を寄せる。



「矢央、どうかしたか?」


からかいすぎたかと心配になる。


「永倉さん……」

「いや、なんだその……生娘を恥じることなんかねぇぞ。 綺麗なままの女を抱く方が野郎としては、全て自分のもののような気がしてだな…」

「芹沢さん…」

「―――あ? 芹沢さん?」


一人慌てていた永倉は、拍子抜けする。

しかも、矢央はあっさり無視までしたものだから恥ずかしくなもなる。






「芹沢さんが、なんだって?」


コホンと咳払いして着物を羽織直した。


「いいえ……。 なんか、呼ばれたような気がしたけど、気のせいですね」


お梅といる間は、大抵お梅が芹沢の世話を見ているから、自分が呼ばれるはずないと首を振った。


だが、何故か胸騒ぎがした。


言いようのない、何かが起こる前触れのような胸騒ぎ。


どうか、何も起こらないでほしいと祈った。



「なんだ、変な奴」

「あっ! てか、永倉さん」

「こ、今後はなんだ?」

「さっきのこと、土方さんに言いつけてやる。 永倉さんに意地悪されたーって!」


ベーッと舌を出し、早速と土方の部屋へ走って行く矢央。


永倉は「ふざけんなー!」と、逃げる矢央を追いかける。



そんな平和な浪士組に、もうすぐ事件が起ころとは――――




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