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「まったく、むちゃくちゃな人ですねぇ」
「いたたっ!」
力士の体重を利用して勝利を得たが、その時に肩や腰を少し痛めてしまう。
屯所に戻ると、呆れながらも沖田は井戸水で濡らした手拭いを矢央の熱を持った肩に押し当てた。
少し、強引に。
「まさか、本当に勝つとは思わなかったよ」
「俺は、矢央が勝つと思ったな」
「なんで?」
唯一一人だけ、矢央を心配しなかった原田に今更ながら藤堂は疑問をぶつけた。
「なにせ、この俺も投げ飛ばしたことがあんだぜ」
「後は矢央の頭脳戦の勝利だな」
「頭脳戦?」
最初のうち、矢央は逃げてばかりいた。
けれど、実際は逃げていたのではなく、力士を動かし疲労させる狙いと、更に挑発し自分に体重をかけさせる目論見があったのだろうと、永倉は矢央に尋ねる。
「正解です! 明らかに不利だと思う相手と戦う時は、相手の力を利用するしかないんですよ。あの人は、私の挑発にかかってすばしっこく逃げ回る私を押し潰そうとした、その体重をてこの原理で倒したってだけです」
「ん。 じゃあ、俺もそうか?」
「原田さんの場合は、いつも大振りなんで動きが読みやすいんですよ。 気をつけた方が良いですよ? たまに、お腹ががら空きです」
「ハハハ!死に損ねの左之らしいじゃねぇか」
解説を終えた矢央に、沖田は釘をさす。
「しかし、あなたは女子なのです。 いくら武道の覚えがあるとは故、取り返しのつかないことにもでもなれば…心配させないでください」
そっと、肩を撫でる沖田の目は真剣で、矢央はキュッと胸が締め付けられた。
「はい。 ごめんなさい…」
「 素直でよろしい。 では早く芹沢さんのもとへ行きなさい。 また、ご機嫌を損ねられないうちに」
「はいっ!」
沖田に促され、素早く立ち上がった矢央は慌ただしく前川邸を後にした。
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