「ねぇ、土方さん」

「なんだ?」


瞼を閉じ暫く静かだったので、てっきり眠ったのだと思っていた。


見下ろすと、やはり瞼は閉じたまま。


「土方さんには、大切な人いますか?」


長い睫が、一瞬揺れた。


それから庭へと視線を向けた土方は、目を細める。


「俺が大切なのは、近藤さん…即ち浪士組そのものだ。
今はまだ小さな組織だが、近いうちに必ず出世させてみせる」


鬼と言われる土方の目は、野心に光り夢を描く。


近藤を一人頂点に立たせ、自分の指導をもって必ずや出世させると誓う目だった。



「……おい…って、寝てやがる」

スヤスヤと寝息を立て始めたの聞いて、こめかみがピクッと動いた。





「矢央……お前もだぞ」


眠ってしまった矢央には届かない。

土方の仲間を想う、その不器用な言葉は。




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