バタバタと足早にあてもなく廊下を歩いていた。


ぐるぐると回っていると、ある程度の場所でゆっくりと歩行を止めると、ぽつりと頬に滴が落ちる。


ぽろり、ぽろり……


「…っ…ふぅ〜っ…」


行く場所がない。

一人になりたいと思った時に、自分の行ける場所などない。


隠れて泣く場所すらない。


矢央は、誰かに聞かれないように奥歯を噛み締めて泣いた。



坂本龍馬に惹かれたのは確かだ。

だが、それは人としてであって坂本龍馬の考えに対してではない。


矢央には未来なんてわからない。

何となく、幕府の時代がいつかは終わることは知っていても、佐幕派にも倒幕派にも有利になる情報なんて、矢央には教えることはできないのに。


何度も、その話はしてきた。

近藤や土方に、未来の話を尋ねられても知識がなかったと伝えてきた。


なのに、あんな言い方。


「……信じてくれないんだ…」


裏切らないのに。

自分は、近藤達を裏切らない自信だけはあった。


右も左もわからない時代に一人、近藤達の世話がなければ、きっともう命はなかったかもしれない。


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