「ほぉらのぉ? ちゅうわけだぎゃ、その刀収めてくれかのぉ?」


「それとこれとは別問題だ。
会ったからには、見逃すわけにはいかねぇよ」


一切引く気はない永倉。

坂本は、ふぅと息を吐き、渾身の力を込め永倉を押し返した。

そのまま斬り合いになるかと思うが、構える永倉に対し、矢央の背後に回った坂本は


「矢央」

と、名前を呼び、結い紐に触れた。


「これは、わしとおまんを繋ぐ。 おまんは、壬生狼と共に生きるには勿体無い女子ぜよ」


振り返りかけた、が、永倉がそれを止める。


「坂本っ! そいつに、余計に事言ってると、ぶった斬るぞっ!」


走り込んで来た永倉を避けた坂本は、雨の中を駆けて行く。


振り返りながら、矢央に叫ぶ言葉は雨よりも響いた。


途中にある屯所の中にも。



「間島矢央、おまんは小さな鳥籠におさまってていい女子やないきに! 世界が、未来がおまんは待っちょるが、必ずまた合おう!!」



雨の中に坂本が消えたと同時に、屯所からは声を聞きつけた沖田らが出てくる。


鞘に刀を収める永倉の隣で、消えた坂本の姿を捜すように見つめている矢央。



坂本龍馬……未来を、変える人。


胸を押さえる矢央の髪を永倉は触った。

正確には、赤い結い紐をだ。



「お前、何を考えてる?」

「………何も」


永倉を見ない矢央、そんな矢央を永倉はじっと見つめた。



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