何故だか、とても名残惜しい。

それは両者の想いだった。


坂本は、まだ幼い少女の未来を案じた。


これから未来は、急速に変化するだろう。

自分の目指す未来に、幕府は邪魔になり、いつか自分の夢を果たす時、その時は幕府の時代は終わりを迎える。


滅び行く幕府。


その幕府に忠義を誓う、壬生浪士組にいては、この純粋な少女は………



「おまん、名は何ちゅうか?」

「間島、矢央です。 坂本さん」

「矢央か。 よし、しかと覚えたぜよ」


渋々、矢央が坂本の手を放そうとした時、ザッと鋭い剣先が坂本の背後から迫って来た。


―――ガキィンッッッ!


永倉の放った突きを、ギリギリで受け止めた坂本。


鞘から半分顔を出すギラつく刃に、驚く矢央の顔が映っていた。



「よぉ―…坂本さんっ? うちの姫さん誘拐してくちゃ困るんだよなぁ」

「これはこれは、永倉君じゃないかっ。 誘拐? わしがか?それは、勘違いぜよ」


雨のせいで、地面がぬかるみ坂本のふんばる足に力が入らない。


永倉の押しに、ズルズルと体勢が悪くなっていく。


「永倉さん! 止めて下さい!
坂本さんは、迷子になってた私を此処まで連れて来てくれたんです!」


チラッと矢央を見た永倉の眼は冷たいものだった。


今は、矢央の知る永倉新八ではなく。

人斬り集団と恐れられる浪士組の隊長として、坂本と向き合っているのだ。


なので、永倉には更々矢央の言葉を受け入れる気などない。


.