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広間には暑苦しい程の人でごったがえしていて、芹沢局長お気に入りの小姓の紹介を今か今かと待つ隊士達がいた。
上座に芹沢、新見、近藤、土方が座り、その近辺に副長助勤が顔を揃えている。
その脇にドキドキと今にも破裂しそうな心臓を押さえる矢央の姿があった。
チラッと様子を伺った永倉はニヤリと笑い、隣にいる原田の脇腹を肘でこつく。
「矢央の奴、すげぇ緊張してんなありゃ」
「おうおう、顔が青ざめてんぞ。 あれで、挨拶できんのかよ?」
「さあな。 まあ、その辺りはあの人が対処すんじゃねぇか?」
そう言って永倉は、矢央から中央で咳払いした芹沢へと目をやる。
「本日は、ある者を紹介したくこの様な席を開いた」
芹沢は矢央に傍に来るように目線で促すが、緊張のピークに達した矢央は気づかない。
仕方ねぇな。 と、一番近くにいた土方が「矢央」と小声で呼び掛けると、ハッとなり顔を上げる。
ヒッ! いっぱいいるよ…。
目を回したくなる程、自分に注目する沢山の視線があった。
「すまんな、間島は上がり症のようだ。 本日より、この者は私の小姓を勤めることと相成った。 少々、躾が到らぬとこがある故、困っていたら手助けしてやってくれ」
躾ってなんだ! 躾って!
緊張していても頭は働いていた矢央は、唇を尖らせて芹沢を一睨みするが、それに気づいた土方に逆に睨まれてシュンとなる。
楽しみにしていた宴だが、皆にどのような反応をされるかと思うとやはり不安が押し寄せ
芹沢に挨拶をしろと言われた矢央は青ざめた顔で口角を引きつらせながら前へ出た。
大丈夫だ。
祖父に教わったように挨拶すれば、ちゃんと受け入れてくれる。
グッと唇を引き結ぶと、女は度胸と気合いを入れた。
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