「もうよい。 女、威勢がいいのも良し悪しだ。 女が男をたてて当たり前以前に、まず目上の者に対する敬意がないのはけしからんと思わぬか」


「――そうですね、芹沢さんのおっしゃる通りです。
矢央君ここはひとまず君が謝りなさい」


山南は芹沢の言葉にも一理あると矢央を叱る。

確かに、男女差別の前に、矢央よりも年長者である新見に対して敬意の見られない態度だった。


何故自分から謝らなくてはならない、と、不満に思う。


――礼儀とは、相手を思う心の表れだ。


ふと、礼儀に厳しい祖父に幼い頃から言い聞かされていた言葉を思い出した。


グッ……と、小さな拳を握る。

「……すみませんでした」


悔しさに我慢しているのが、その大きな目にうっすら浮かぶ涙でわかる。

それを見た芹沢は、矢央の中に秘められた魅力に興味を抱いた。


「俺は、芹沢だ」


先に名乗れと言っていたはずが、芹沢から自分の名乗ったことにそこにいた全員が驚く。


呆然と芹沢を見上げていたが、ハッと意識を取り戻し。

「ま、間島矢央です……」

「間島か、気に入った。覚えておこう。 こいつは、新見だ」

「新見…さん。間島です……」


新見に対しては、まだ素直になれない矢央は視線は合わせないものの、芹沢への敬意にはからいぺこっと小さく頭を下げた。

同じく納得していなかった新見は、チラリと見やっただけで無言。

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