「矢央ちゃんって、剣術かなんかやってない?」
「………へ?」
唐突な質問に目を丸くすると、矢央はあっさりとその答えを発した。
「剣術はやってないですけど、合気道を少々」
「「「合気道!?」」
「体術の一つで、受け身を基本とした……護身術です」
サラッと話す矢央にとっては普通の事だが、男達は驚きが隠せない。
ポカーンと口が開いたままだ。
「剣術じゃなく、体術かよ」
「? はい。 おじいちゃんが、格闘技好きなのと、私小さいんで……過保護な親が誘拐されたら困る! とかなんとか言って、自分を守れるようにって気がつけば習ってました」
それが何か? と、三人を見上げたまま首を傾げる姿が、三人は子犬のように見えて仕方ない。
こんなに小さな子が、投げたり殴ったり……できるのかと。
「ほらね、やっぱり僕の眼は確かじゃないか!」
えへんと胸を張った藤堂を無視して、永倉の視線は矢央に向けられている。
「んで、腕前は?」
「えーっと……さあ?」
「なんでわかんねぇんだよ?」
そう尋ねられても困ると、唇を尖らせた矢央。
「私の流派は、試合を好まないとこだったんですよ。
師の教えは、精神論ばかりで……」
相手の技を己の力に変え、どんな強豪や状況を前にしようとも常に平常心を持て。
相手を傷つけるものとするのではなく、己を守るものとしろ。
これが、矢央の師が常日頃から言い聞かせているものだった。
「試合なんてしなくていい、敵は常に己の心の中に存在するのだ……てのも、口癖でしたね」
「敵は常に己の心の中にある」
山南は、その言葉に深く共感し何度も頷いていた。
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