「あ、ああ。わかりやすくいうと、原因はわからないが、マリアという神は自分の力をある時から制御できなくなってしまったんだ。
そして、時間をゆがめてしまったり、いろんな世界に住む者をとばしてしまったり、出してはいけない魔物を大量に生みだしたりしてしまっている。

そのままだったら、たくさんの世界が消滅を免れない状況だったんだと思うけれど、マリアは苦しいながらも、地上に住む者たちに世界を託する方法を考えた。

暴走する心を自分から遠ざけて、世界を救える力を持つ者に助けてほしいと願いをこめた。
神だけでは力不足で暴走を止めることはできないが、産みだされたたくさんの魂の力ならマリアの力を増幅し、暴走する力を止めることができる。

それができるのは千代。暴走する力のカギは贄であるナオ。
ナオはマリアの心臓だから千代が食べつくせば暴走する邪悪な心は力を亡くすことになる。

けれど・・・」


ルイゼの表情がこわばる。
リリルはその続きを推理して話す。


「どの世界でもいちばん大切な人になってしまったナオを千代が食べつくすなんてことができるのかしら・・・。
契約は試練のハードルをより高くするものだったのね。
好きにならずに憎める存在なら、簡単に彼を殺して世界を救えたかもしれない。

私だってナオを殺すなんてできない!
いくらもともと死体だといわれてもそんなの信じてないもの。
私の贄であってほしかったとずっと思ってたわ。
でも、でも・・・そんな・・・普通、死体に自分の心臓を入れちゃう神様なんて信じられるわけないわ!」


「でも、どんなに千代がナオのことを愛していたとしても、食ってもらわないと救えないんだ・・・。たくさんの命とたくさんの世界すべて・・・。

食いつくして悲しみの心に勝ったとき・・・みんなを救う呪文が千代の中に浮かび上がる。
近いうちにそれをやることになる。」


「ねぇ、もし、千代が悲しみに負けちゃったらどうなるの?」


リリルは涙を浮かべながらつぶやくと、ルイゼは首を横に振った。


「俺と握手でもしてくれる?俺、ぶっちゃけ小心者だから・・・ひとりで消えるのはなぁ・・・」


「あなたならよくってよ。かなり私好みの容姿だし・・・・・。