オミの剣から勢いよく炎が飛び出したから、危うく腰をぬかしてしまうところであった。


「まだ、このくらいしかできないんだけど・・・救世主らしいの。私。」


「千代さんが・・・救世主・・・信じられない。」

オミはそうつぶやくと、何か考え込んでいる様子になった。


((あら?どうしちゃったのかしら・・・。ちょっと炎の量が多かったのかな。
あまりにちっちゃくて非力そうな救世主にショックを受けちゃったのかも。))


千代がそんな考えをめぐらせていると、オミは千代を強く抱きしめて叫んだ。

「俺、千代さんを守ります!こんな小さな肩に世界のすべてがかかるなんて、あまりにむごすぎる。病院にかつぎこまれてて、偉そうなことは言えないけど、俺はこの命をかけてあんたを守ると約束します。
あの夢の意味が今、わかりました。これは宿命なんです。」


「え・・・あの・・・ちょっと・・・」


長身のオミの胸で押さえつけられて酸欠になりそうな千代を、偶然さがしにきたナオが発見して叫ぶ。


「やめろ!俺の嫁さんを殺す気かぁ!」

((俺の嫁さん・・・?))


オミは慌てて千代から離れてびっくりした顔をしている。

千代もまたびっくりした顔をしてナオの方を見た。


「あの今、先生は俺の嫁さんって言いませんでした?
奥さんって千代さんに似てるんですかね。もしかして千代さんにはお姉さんがいるとか。」


ナオは不機嫌な表情をあらわにして、つぶやいた。

「救世主である千代は僕の奥さんってこと。年が離れてるし、診療所であれこれ言われるのが嫌だから、千代ちゃんって呼んでるだけ。
救世主を守ろうとする気持ちはありがたいけど、破廉恥行為は夫として許さないからね。」


千代はゴホゴホと数回咳き込んでから、うつむいてしまった。


オミは守るといったことについては本心で、約束すると言うと、診療所を出て行った。


ナオは自分では頭に血がのぼったのをなんとか押さえて出た言葉がこれだったというつもりだったが、千代が黙ったままなので、何もいわず診察室にもどるしかないと思った。