「そっか。近くにいられるってのも心が近付くのとは違うものなんだね。
難しい・・・。
なまじお互いに違う力を持っているからつらいわね。
でも、そこまで考えるようになったんなら、先生の思うことさせてあげたらどうかしら?
子どもっぽいヤツのお世話したいなんて思うなら、あんたもか弱い女の子のフリをしてあげるくらいしないと大人の女じゃないわよ。」


「か弱い女の子のフリ?」


「日本人の女性ってそういう技使って、男の人をたててあげるんじゃなかったっけ?
贄の役目を果たすんだって思うから怖くないんだと思うから。」


千代は実家で母が似たようなことを話してくれたことを思い出していた。
千代の母親はわざと父親に叱られてたことが多かったけれど、そのたびにあとでクスクス笑っていたものだった。


千代はさりげなく書類整理していたナオのところへお茶を運んだ。
ナオは「ありがと」と一言だけいって千代には目もくれず仕事を続けている。


((ゼアがいったみたいにすねてるのかしら・・・?))


千代はしばらく部屋の入口前に立っていた。
用がなかったら出ていけといわれるかもしれない。
ずっと無視だったらどうしよう・・・などといろいろ次に出るだろうと思われるナオの行動を想像していた。



「僕に用があるのかい?」


ナオはちょっと気まずそうな意地悪そうな口調で質問してきたので、千代はすかさず


「ご褒美のキスをいただいていません。」と答えた。



ぶ、ぶぶぶぶぶぅーーーーーーーーーーー!

「ゴホ、ゴホッ・・。エヘン・・・うっ・・・」


「あっ、先生、大丈夫ですか?苦しい?」



「ゴホッ、ゴホン、ゴホッ・・・だ、大丈夫。ふぅ・・・ごめん、僕の負けだ。
ゼアにも何か言われてきた?ごめんね、心配かけた。」


千代は横に首をふると、ナオに正面からとびついた。


「おわっ!千代ちゃん?」


ナオは千代がとびついた勢いで尻もちをついてしまった。
上からのしかかった千代は小さな声でつぶやく。

「ずっと側にいてくれないとイヤ。」