開かない扉


ナオは静かな口調で口を開く。

「マリアと名乗る神様はこの世界の神だと考えていいのか?
それとも・・・神様という存在は複数存在して、争いでもやっているのか?」


「もうひとつ、考えてることがあるんじゃないのか?」


ルイゼが意地悪く返事をした途端、ナオは愕然とした。

「まさか・・・でも・・・神官やトカゲたちは・・・」


「この世界は造り物だっていうのは、この世界の誰もが知ってる。
それはべつの世界からここへ送りこまれた人間であったり、俺のように人間でない存在だったり、ここで生まれてここで歴史を覚えた者ばかりだからだ。」


「ここで生まれた者はほとんどいない。なぜなら、この世界は若い女が極度に少ないからだ。だからこそ、ほとんどの者は元の自分の世界へもどりたいと思っている。
だが、現実は扉を開けそこなった人類は抜け出せないようになっている。
いや、もしかしたら抜け出せた人はいるのかもしれないが、この世界からは抜け出せた人なのか、ただの行方不明者なのかわからないから、証明はできない。」


ルイゼはそういうナオに向かって頭を下げてつぶやいた。

「千代に呪文を言わせてやってくれないか。あんたしかできない仕事なんだが。」


「贄の呪縛そして、役目・・・。それが神様からの命令というわけか?
マリアもオーヴィアに命令する神も、君の主も同じ個体・・・まるで多重人格者のような神が真実の神の姿とでもいうのか・・・。」


「俺も信じたくないけど、そういうことになるな。
千代のおかげで、最近その結論に達したばかりだがな。
まぁまぁの年を重ねてきた魔法使いの俺でも、今まで神がとんでもないことになっているなど、想像もつかなかった。情けないがな。」


「人間が人間の進化の中で凡人でない存在が増えていき、息詰まるとしたら、神も同じようなことがあっても不思議じゃないはずだ。
世界を創造し、安定させ、平和を祈るだけで終わるわけがない。
そもそも、僕を生かしたのはなぜなんだ?って疑問を解いていけば、わかりやすかったのかもしれない。

・・・で、何がこれから起こるのか、知っているんだろう?君は」


ルイゼは1か月後のこの世界はないと答えた。