千代は驚いた。
診療所にいたときには、ナオがそこまで自分にかまってくれるようなことはなかったからだ。

仕事が忙しいせいもあったけれど、まるで今のやりとりって恋人どうしみたい・・・。

!!あっ!!しまった。


「そうだね。恋人どうしみたいだ・・・あはは。
顔が見えないっていうのは、ある意味便利だね。
僕は君の親代わりとか兄貴代わりとかしなくてすむわけだから。」


「えっ、もしかして、ずっと私の保護者代わりっていうのが嫌だったとか・・・?」


「嫌じゃないよ。必然の多いこの世界で、千代ちゃんを拾うことになった僕は幸せ者だと思ってる。
君がもっとわがままで、自分勝手で、気分屋だったら僕はとっくにもとの死体へともどってるはずだし。」


「ねぇ、先生は一度死んじゃったんでしょ?この世界で生き返らせてもらったときってどんな感じだった?」


「それが・・・死んだときまではうっすらと覚えているんだけど、この世界でもどってきたときは、もう魔法を使いながら医療現場にいた記憶しかないんだ。」


「どうして、この世界まるごと造れちゃう神様がナオ先生ひとりぐらい、人間や魔法使いとしてこの世界に存在させてくれなかったのかしら。
生贄用の魂を人型にするなんてひどいよ。」


「どうしてだろうね。でも、僕はその方がよかったと思ってる。
死んだ自分が生き返ってもう一度、あのときの自分にはなりたくないんだ。」


「どうして?お店でいちばんの人気者だったんでしょ?・・・あ、でも・・・。」


「でも、なに?」


「今のナオ先生の性格というか、内面だったら、華やかな夜の世界はすごく苦痛だったんじゃないかと思って。」


「苦痛か・・・。どうだったんだろう?苦痛なのか楽しいのか考えたこともなかったな。ものすごく忙しかったのと、酔ってたからかな。」


「ちょっぴり、そういう先生も見てみたい気がするけどね。えへへ」


「早くもどってきたら見せてあげるけど。」


「その手はのらないよ。うふふっ。」