開かない扉

千代も突然のナオとの会話に戸惑っていた。
どう説明したらいいのか?
1か月も帰らないなんていったら、きっとナオはショックをうけるかも。

それとも、私がルイゼに洗脳されてしまってると思ったりして。

いろんな想像が頭をかけめぐって、言葉を選ぶのにあせっていた。


「テレポートの魔法は使わないでね。1か月、1か月経ったら、必ず診療所にもどりますから、時間をください。お願い。

ルイゼは悪い魔法使いじゃないの。先生が贄であることもきちんと説明してくれたし、契約がどういうものかも・・・。」


「千代ちゃん・・・。そっか。そういうことなんだね。
ごめん、ほんとなら、僕の口から説明しなきゃならなかったのに、弱虫なものだから、言えなかった。

ただ、これだけは聞いてほしい。

千代ちゃんは無理をしなくていいから。僕のために嫌な思いすることなんてないんだから。ね。」


「でも、契約しないまま時間が過ぎちゃったら先生は・・・」


千代はまた涙があふれてきた。


「ごめんね、話すと泣かせてしまうね。・・・僕は契約なんてどうでもいいんだ。
この世界を救ってくれる人がいて、千代ちゃんや、みんなが楽しく暮らせれば。
もちろん、元の世界へもどってくれるのもいいと思う。

僕はとっくに死んでしまった人間だから、気にすることなんてないんだよ。」


「だけど、契約したら、もっとこの世界で先生していられるでしょう。」


「そうだね。人間としてここで存在することができるし、千代ちゃんがもし、危ない目にあったら僕がいちばん助けてあげられる存在になるということは、うれしいかな。

だからといって、今も君を泣かせているし、ずっと僕が君を困らせてしまうなら、千代ちゃんにはもう戻ってこなくていいと言うよ。
戻らずに、これでさよなら。そして、早く忘れて・・・」


ナオが話し終わらないうちに千代は叫んでいた。