そうしているうちに、俺は眠っていた。
 次に目を開けた時は、黒い世界にいた。
 俺は、またかと思いながら歩いていた。
 しかし、いつまで経っても前のように彼女の歌は聞こえてこなかった。
「そうだよな。俺は、彼女に会う資格なんてない。」
俺は、足を止めそうになった。情けなく俯き、拳を握った。
 夢の中でさえ、俺は泣きそうになった。
 そんなとき、世界が白く明るくなり、白くきれいなかけらが舞い降りてきた。
 俺は手をかざし、空を見上げる。
 祝福の空だ。
 彼女の生まれ、死んだときの天気。
 ふと、隣を何かが通りすぎる。
 白い布。細い腕。柔らかい金の髪。前だけを見るきれいな金の瞳。
 彼女だった。
 しかしその目には、俺が映っていなかった。
 前だけ見て、彼女は走っていた。まるで、何かを振り切るように。
 彼女は、どんどん前へと走っていく。
 俺は、それをまた見ていた。
 彼女は、ふとと足を止めて振り返った。
 決して俺を見ているわけではなく、ただ悲しそうな顔をして何かを思っていた。
 しばらくそうした後、首を振りまた走り出した。
「さよなら。ラド」
走り出す前、彼女がそう言ったのを俺は聞いた。
 俺ははっとして、下唇を噛んだ。
 勢い込んで足を進める。
 俺は、彼女を止めなくてはいけない!彼女の手をとらなくては!
「ウィン!」
手を伸ばし、彼女の細い手を握った。
 温かい。
 思わず俺は、彼女を引き寄せ抱きしめようとした。
 しかし彼女の体は、俺の腕に収まる前にはじける泡のようにきれいな光になった。
「ラド」
彼女ははっきりと俺を見ていた。そして、一粒の涙を流しほほえんだ。
 俺の腕は、また空を抱いていた。ほんの小さな温もりだけを残して。
 手のひらに、彼女が流した涙が光っていた。