――『そいつは俺をダシにして、お前に近づこうっちゅー魂胆や』



嫌だな。昨夜那智があんなことを言ったせいで、変に構えてしまう。

まぁ、あんなの気にする必要ないんだけど。



「ところで弟さんは、やっぱり美術部に興味なさそう?」


「えっ、あ………ごめん」



小さくあやまると、熊野くんは紳士的に笑った。



「いや、こっちこそ気を使わせてごめん。桃崎さんに頼むことじゃなかったよね」



あ、でも。と熊野くんは続けた。



「うちの部の後輩が、弟さんを勧誘に行くって言ってたんだ。
だからもう、桃崎さんは気にしないでよ」


「後輩?」


「うん。2年の女子」



……女子。ですか。