私はシュノーケルとフィンを藤臣さんに没収され、ライフベスト着用を義務付けられた。
みんなに心配をかけたから、それは仕方ないけど…
私を助けてくれた後から、宝井さんの様子がおかしい気がする。

コンコン。
夜の10時を回っているけど、まだ起きているよね?
流石に本人には訊けず、私は鷹護さんの部屋のドアをノックした。
執事候補生総代として執事候補生を纏める鷹護さんなら、何か気付いたかも知れない…
「誰だ?」
よく通る声と共にドアが開いた。
一瞬目を見開いた鷹護さんは、今度は少し困った顔をした。
まだ知り合って1ヶ月足らずだけど、鷹護さんの僅かな表情の変化が分かるようになった。
鷹護さんは決して無表情なんかじゃなくて、顔に出にくいだけだと思う。
「…どうした?」
ぶっきらぼうな話し方だけど棘はない。
「ここだとちょっと…」
他の人に聞かれたくなくて、私は部屋に入れて欲しいと鷹護さんに訴える。
「こんな時間に女を部屋に入れられない」
憮然と応える鷹護さんを押し切って、私は強引に鷹護さんの部屋に入り込んだ。
「鷹護さん、気付かれました?その…あの……」
勢いで乗り込んだものの、いざとなると言葉に詰まる。
「宝井のことか?」
やっぱり鷹護さんも気付いたんだ。
「そうです。あれから何か…元気がないと言うか…」
「宝井の心配より自分の心配をしたらどうだ?」
突然の鷹護さんの言葉を私は理解出来なかった。
黒いVネックのカットソーにデニム姿の鷹護さんは大人っぽく見える。
「気持ちを抑える積もりはないと言った筈だ」
あっという間に私の体はスッポリと鷹護さんの腕の中に収まった。
「俺が嫉妬深いと知って、他の男の話をするのか?」
耳に掛かる鷹護さんの息が熱い。
「淑乃、俺を見ろ」
有無を言わせない鷹護さんの口調に、私は鷹護さんの顔を見上げる。
「っん!」
コツンと鷹護さんが軽く私に頭突きをした。
「宝井のことは俺も解らないが、今は1人にしてやれ。落ち着いて話したくなれば話すだろう。そんな顔で宝井を見るなよ?宝井も困るだろうし、何より俺が気が気でなくなる」
フッと笑った鷹護さんに
「こんな時間に男の部屋を訪ねるな。何をされても文句は言えないからな」
と念を押され、私は鷹護さんの部屋を後にした。