ベリルは拷問器具を並べる青年の微かに震える手を見やり、彼らを後戻りの出来ない状況に追い込むつもりかと嘆息(たんそく)した。

 成功すれば彼らはハロルドの言葉だけを信じ、死ねと言えば自ら命を絶つほどの人間になるだろう。成功すればの話だが。

 もちろんベリルには、それを成功させるつもりも洗脳を受け入れるつもりもない。拘束されているからと、何ひとつ出来ないと考えているなら間違いだ。

 準備が整えば催眠ガスが送り込まれる。次に目が覚めたときには拘束されているだろう。

「父さん」

 ふいに背後から声を掛けられ振り返る。

「トラッドか」

「やるんだね」

「うむ。そろそろ頃合いだろう」

 いつもの明るい息子ではないことに若干、ひっかかりはしたがそんなときもあるだろうと気には留めなかった。

 トラッドは準備に忙しいハロルドにそれ以上話しかけることはせず、ゆっくりと水槽に近づく。