「来たか」
「はい」
難しい表情をした先輩にこっちも気を引き締める。
「彼女は?」
「眞子さんに連れてかれました。なんか格好がダメだったらしくて」
そう告げると
あいつらしいや、と少しだけ口元を緩め振り返る。
置かれているビジネス用の回転椅子はさほど広くないこの部屋ではやけに目立っていて、余計に先輩の存在を大きく見せている。
「思ったよりやっかいかもしれん」
座るように促され眞子さん用なのか可愛いシルバーのスツールに腰掛けた瞬間、低い声で聞かされたのがその一言だった。
「やっかい……ですか??」
やっぱり何も分からなかったんだろう。それだけ親父さんの緘口令が厳しいのかも知れない。
なんて思った俺は、先輩のネットワークを本当に何にも知らなかった。



