「じゃあ行こっか。鍵持ってる??」




「うん!大丈夫」




朝起きて顔を洗ったまりあはすっかり夢の事なんて覚えてないみたいにすっきりした笑顔。




ごめんな。


その笑顔を曇らせに出掛けるなんてとても言えない俺は無口になってしまう。




「海人??あーんして」



少し前だったら信じられないキミとのまるで新婚のような生活なのに。




素直に喜べない俺がいた。


きっと俺が意識を失っている1ヶ月間、先輩も同じ思いだったんだろう。




「まりあを連れ出さなければ……」



「もっと巧くやれていれば……」



あの父親の事を好きだったか?と聞かれたら、そんな訳無いと即答出来る。


だけど……まりあにとってただ一人の肉親だっただけに、消しても消してもこの思いは巡って来る。




そう、きっと一生。



「海人??」



「ん?何でもない。そろそろ行くかっ」




時間は8時半。

非番の母親が迎えに来るって言ってたっけ?



手早く準備したと同時に玄関のチャイムが鳴った。