「あの日はクリスマスの夜。 今の君みたいに、彼女が俺を迎えに来てくれた。 また俺と契約したいってな」

「そ、それで?」


話を急かすと、安藤さんはまた笑う。


もう! 焦らさないでよ!


赤信号で止まった車。

懐かしげに歩道を歩くカップルを見ていた安藤さん。


「向き合おうって思った。 それから暫く仕事上の関係も続けたけど、中途半端なままやとあかん思うて、俺は会社を辞めて彼女のもとへ帰ったんや」


「そうなんですか!」


なんだか嬉しい!

仕事上の関係を乗り越えた二人。

あたしも、そうなれたらいいのって羨ましくなる。


「俺には、あの仕事にすがりつかなあかん理由もなかったから出来たこと」


急に声のトーンが下がる。

信号が青になり、ゆっくりと車が進み出した。


「やけど、相馬君と君には他にも乗り越えなあかんことがある」


黙っていると、安藤さんはハッキリと言った。


「好きなんやろ? 相馬君のこと」

「………はい」

「なら、君も覚悟せなあかんよ。 相馬君の過去も現在も、そしてこれからも受け入れる自信がないなら、二人…いや三人は一緒におるべきやない」


安藤さんが言いたいのは、陸君のことだと直ぐに分かった。

想いが通じたとしても、あたし達には大きな壁がある。


男女二人の普通の恋愛は出来ないから。


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