安藤さんの車に乗せてもらって、彼のもとに向かっていた。


「わざわざすみません」

「ええよ。 あんまり他人事のようにも思えんからね」


会社から少し離れた場所を走り出した車の中から、流れていく景色を眺め、高まる感情を抑えようとしていた。


そんな時、安藤さんがクスッと笑った。


「俺も昔、お客様を困らせたことがあってね」


どうやら思い出し笑いだったみたい。


あたしは、何気ない気持ちで、安藤さんの思い出話を聞いてみることにした。


「キャンペーン中だけの契約やった。 家政婦と客として、最初は一週間だけの付き合いになるはずやったけど、色々あって今も一緒におるようになった」

「え? でもさっき、もう仕事は辞めてるって」


「辞めてるよ。 やから、今は仕事上一緒におるわけやなくて、男女として向き合って一緒におる」


急に興味が湧いてくる。

最初は仕事上、だけど今は男女として一緒いる。

それはつまり………


「お付き合いをしてるんですか!?」

「そういうこと。 契約上、客との恋愛はタブーやった。 やけど、気付いたら彼女を一人の女性として見ている俺がおってね。 このまま何も知らん顔して仕事を続けるわけにはいかんかった。 一緒に暮らしてるから、もし何かあったらってね」


チラッとこっちに向いた表情は苦笑いだった。

手を出さない自信がなくなり、安藤さんは仕事をおりたらしい。

まるで、あたし達みたいだ。

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