「それは…覚悟の上だ」


思い立ったように立ち上がり、何処へ行くのかと目で追えば、彼はキッチンへ向かった。


どうやら飲み物をいれているみたいだ。



「全部聞いたなら分かるだろ。 俺には陸を育てる責任がある。 あいつが、ちゃんとした大人になるまで、これから沢山金だってかかる」


手際良くコーヒーと紅茶をいれて、席に戻ってきた。


ありがとう、と伝えて、彼の話を聞いた。


「寂しい思いをさせてることくらい分かってるさ。 けどな、それも仕方ないことだって言い聞かせることしか出来ねぇだろ」


「一緒に住みながら、働けないの?」


「あのなぁ、ガキ持ちの男が余裕持って働ける場所なんてそうそうねぇよ。 世の中ンな甘いもんじゃねぇことは、あいつを一人で面倒みると決めた時に分かったからな」


秘密主義だったはずの彼が、これまでのことを語っていく。

あたしに全て知られてしまったから、隠す必要もなくなったのかもしれない。


「陸が生まれた時、俺はまだ学生だったしな。 大学辞めて働くにしろ、そう簡単に仕事もなかった。 掛け持ちして働いて、働き続けて、そしたら陸の母親はそんな俺が嫌になったとかで出て行った」



お嬢様だった奥さんは、贅沢が出来ない上に、急に一人で子育てをして、彼と過ごす時間もなくなり、そんな暮らしが耐えられず二人を捨てた。


「無責任だね」


率直な意見だった。

だってそうじゃん。

二人で愛し合って子供を授かって、三人で生きるって決めたくせに、耐えられず逃げ出したなんて。


「無責任…か。 それは俺にも言えるさ。 だからこそ、俺は陸を立派に育てる責任がある。 仕事なんて選んでる場合じゃねぇってことだよ」


今の会社は、陸君と二人になってこれからどうしようかと悩んでいた時に、よく相談に乗ってくれていた先輩に紹介されたらしい。

子供がいても稼げる。

その代わりに、子供との時間は減った。

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