「皮肉なもんでねぇ、また孫も娘と同じ道を辿ってしまってね」

「同じ道?」

「そう。 璃兎さんと出会って恋をして、陸を授かって結婚……。 だけど、一人娘だった小夜には婚約者がいてね」


なんとなく分かってきた。


おばあちゃんは、ゆっくりと穏やかに話を進める。


「璃兎さんは、大学を辞めて小夜と一緒に此処へ来たのよ。 互いの両親に反対されて行き場を無くしてね。
でも、璃兎さんはあたしに言ったのよ。 もう大人だから、自分が頑張って二人を支えますって」


生活の基盤が出来るまで、おばあちゃんの家にいさせてほしいと頭を下げた。

あの時の二人を見ていると、娘さんを思い出して、出来る限り力になりたいと思ったと語る。

あの他人に感心を示しそうにない男に、そんな過去があったなんて。


何だか複雑だった。

奴は小夜さんや、生まれて来る赤ちゃんを大切に思ってた。

それは素晴らしいことだけど、奴にとって特別な存在がいたことに複雑な思いがあった。


「寝る間も惜しんで働いてくれてね。 陸も生まれて、幸せそうだったのに、小夜がまさか逃げ出すなんて……」

「えっ?」


逃げ出した?

赤ちゃんや奴を置いて?


「若いからって済まされないわよね。 自分の息子と主人を置いて、小夜がいなくなって、もう四年かしら。
それでも、璃兎さんは文句一つ言わないで陸を育ててくれたのよ」


奴は小夜さんがいなくなった後、一人で陸君を育てるために、給料が良い今の会社に入ったらしい。

お金を貯めて、早く二人で暮らせるようにらしいけど。


「あの…、相馬さんは、まだ小夜さんのこと待ってるんでしょうか?」

「それはどうだろうねぇ。 それについては、何も語らないから」

「そう…ですか」


奴の秘密を暴いてやろうと思ってた。

弱みを握って、日頃の仕返しをしてやれたらって。

でも……、こんな秘密があったなんて。


.