「手が汚れるのが嫌だからって、箸を使って具材を混ぜるな」

だってネチョネチョして気持ち悪いと反抗すれば、手を洗えばすむと一言で返された。


「そもそも、玉ねぎやにんじんは細かく切れっつっただろ。
あれじゃ、ぶつ切りだ」

「……だって、怖いもん」

「………」


ひゃっ! 睨まれた!


きっとこの後、奴からオキツイお説教でも食らうのだとばかり思っていたのだけど、奴は私に手を洗うように指示を出しただけだった。


拍子抜けしながら手を洗い、奴を見ると、ツルンと皮を剥いた玉ねぎが一個又板の上にのっていた。


首を傾げていると、

「教えてやっから、もう一度やってみろ」

「え……?」

「わかんねぇなら、わかるまで教えてやる。 怪我をされても困るし、何より材料が無駄になるのも困る」

「……ああ、そう」


ほんの一瞬だけ、意外と良い奴かもなんて思ってしまった自分に不覚だ。

優しい訳じゃなくて、私が失敗すると自分が困ると言いたいわけだね。


「………フンッ」

「……お前、それが教わる態度か?」

「うるさい。 教わってあげてるのよ!」

「……作用でございますか」


わざとらしく息を吐いた奴は、切れ味最高そうな包丁は棚にしまい、変わりに玩具のような全体が白い物を取り出した。


「なにそれ?」

形は包丁より少し小さめなだけなんだけど、刃の部分まで白い。

まるでプラスチックの玩具みたい。


「お子さま用、手を切らないための包丁」


それを使えと。

お子さま用を、私が使えと。


「お前の実力は、ガキ並みだと分かったからな。 ままごと用ので練習しな。
でもま、最近の玩具はバカにできねぇんだわ……ほらな」


玉ねぎを細切りしやすいように小分けに切ってみせ、クルンと手慣れた動作で包丁の持ち手部分を私の手に握らせた。


玩具のようで、ちゃんと切れるというわけね。

凄いじゃん……。


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