誰も知った人のいない土地への旅立ちは、それだけで私に緊張感を与えてくれた。


何度も通い2LDKのオートロックマンションも見つけた。


西洋風な佇まいで、此処で今日から新しい生活が始まると思うだけでワクワクして仕方ない。


不安なんてない。


あるのは、ただ期待だけ。


「来週から大学始まるし、今週中には片付けちゃわないと」


大きな荷物や家具の設置が終われば、先月建ったばかりの綺麗な部屋には私だけになる。


今日から、此処で暮らすんだ。

ピカピカに磨き上げられたフローリングに寝転び、嬉しさに頬が緩むのが抑えられない。


変な顔になっていようが良い。


だって此処には私だけしかない、気を使う相手が誰1人いないというのはなんて楽なんだろう。


「うーんっ、1人暮らし最高っ!」

「でけぇ独り言だな」


「だってぇ、私しかいないんだ…もん……え?」


この部屋には私しかいないはずなのに、何故か真上から降って来た男性の低い声。


じっと見上げると、腕を組んで私を見下ろす長身の男性がいた。


「業者さん?」


まだいたのかな?

引っ越し業者さん、確かにさっき見送ったはずだけど。


「遠からず近からず、でもバズレにちけぇ」


偉そうな態度と言い方に、私は困惑した。


業者さんじゃないなら、あなた誰ですか。


まさか………


「泥棒っ!?」


「俺が泥棒なら、んなに大胆な行動はとらねーな」


「だっだだったら誰ですか?
業者さんでも泥棒でもないなら…」


すっかり怯えてしまった体は、起き上がれないまま、ずっと一点を見上げたまま停止していた。

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