「標的とは別のヤツが紛れ込んでいた…のですかね。」

周囲を探りながら呟く。

ヒュッ。

敵の爪を辛くも避ける。浅く自身の頬が切れて、うっすら血が滲んだのがわかった。

「あ!コラ、てめぇ何しやがんだ!」

ルシが耳元で叫び、自身は顔をしかめた。

「ルシ、うるさ…」

言いかけた自身を無視して、ルシが飛び出して行く。

濃い青紫の塊の行方を目で追うと、その先に異様に長い腕の人型に似た泥苔色の肌の何かが居た。

頭には皿。

(ああ、川が近かったっけ…)

襲ってきた敵の正体と紛れ込んでいた理由を悟る。

(川の中の確認をしなかったらしいな)

そこまで考えている間に、ルシは敵まで到達していた。

自身は慌てて後を追う。

あの小さい体では、あっさりとやられて仕舞うのが落ちだ。

と。

ルシの体が夕暮れの影のように伸びる。
小さな手の爪も、より長くより凶悪なモノへと変化した。

黒い豹のような優雅な姿に変じたルシは、其れだけは豹とは異なる長い爪を、泥苔色の肌に振るう。

飛び散る体液と、鼻につく黴臭い匂い。

『お前…いや貴方は…』

傷を押さえ、呟くと突如として身を翻す。