恋時雨~恋、ときどき、涙~

確かに、水平線の向こうから、厚い雨雲が流れ込んで来ている。


でも、わたしの上空はまだきれいな茜色の空が広がっていて、雨は降っていない。


目の前がじわりと滲む。


ああ、そうか。


わたしが、泣いていたのか。


わたしは海水まみれの腕で、ぐいっと目をこすった。


海水が目にしみる。


季節はもう本格的な夏を迎えようとしているのに、わたしの手は真冬のように冷たくかじかんでいた。


つま先に、痛みさえ感じる。


わたしの手は、水で白くふやけていた。


爪の隙間に、細かい砂が詰まっている。


こんなに探しても、見つからない。


……当たり前か。


海はこんなにも広いのだ。


もう、潮に流されてしまったかもしれない。


見つかるわけがないのかもしれない。


6月の夕日が、やわらかく降り注ぐ。


穏やかに凪いだ水面をぐるりと見渡すと、頭がぼんやりして、何も考えられなくなりそうだった。


涙が、頬を伝い落ちる。


わたしは腕で頬をこすって、再び、濁った水にかじかむ手を突っ込んだ。


いつ、どこで、間違えてしまったのだろう。


砂を、かき分ける。


いつ、どこで、すれ違っていて、なぜ、その事に気付けなかったのだろう。


砂を、ぐるりとかき回す。


額をするりと汗がすべりおちる。


わたしたちの恋は、いつ、すれ違ってしまったのだろう。


砂をかき分けながら、わたしは唇を噛んだ。


ぽと。


ぽと、ぽと。


こぼれた涙が、水面を揺らす。


砂をかき分けながら、わたしは涙を止める事ができなかった。