恋時雨~恋、ときどき、涙~

湿った砂に座り込む健ちゃんは、ぼんやりと虚ろな目をしている。


わたしはパンプスを脱ぎ捨てて、海に入った。


裸足で、膝下までの深さまで一気に。


海水の冷たさに、背中がぞくりとした。


足元で、砂が揺れる。


透明な海水に躊躇なく、両手を突っ込んだ。


ひらひら揺れる裾に海水が染み込んで、ずっしり重い。


せっかくのパーティードレスが海水に濡れても、どうでも良かった。


そんな事をいちいち気にしている余裕が、わたしにはなかった。


どこだ……どこにある?


わたしは目を凝らして、浅瀬の中を見つめた。


ない。


ない。


もしかしたら、もう少し沖の方だったかもしれない。


わたしは海水をかき分けるように、ずんずん、沖へ向かった。


海水はもう、太ももまで達している。


この辺りだったかもしれない。


足元で、潮に漂い砂が揺れる。


目先に見て取れる物といえば、さらさら漂う砂と貝殻で。


だけど、どうしても、諦める気になれなかった。


えいっ、と両手を突っ込む。


わたしは、一心不乱に、砂をかき分けた。


手当たり次第、我を忘れて、終いには何かに憑りつかれたように。


そこらじゅうの砂を、両手でかき分けた。


どれくらいこうしていたのか、分からない。


辺りは泥水になって、もう、向こう先が見えないほど濁っている。


ない。


ない。


……ない。


ぽつ。


雫が水面に落ちて、小さな円が何十にも広がっていく。


ぽと。


もうひと粒。


あれ……雨?


ふと、顔を上げる。