恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、雨の匂いをたっぷり含んだ風に逆らうように、両手を動かした。


〈久しぶり〉


緊張で、指先が震える。


〈元気、だった?〉


健ちゃんからは返事は愚か、反応さえなかった。


覚悟はしていたけれど、やっぱり、胸が痛い。


健ちゃんは両手をポケットに突っ込んだまま、一度は止めた足をまた動かして、わたしのそばまで来るとまた止まった。


わたしは、にっこり微笑んでみせた。


だけど、健ちゃんは瞬きひとつせず、すうっと極自然に目を反らし、わたしを避けるように通り過ぎた。


……健ちゃん。


わたしは、とっさに振り向いた。


夕日が当たる、背中。


寂しい背中だった。


泣きたくなった。


想い出も感情も景色も、全てに嫌気がさして何も見ようとしない目を、健ちゃんはしていた。


無視、されてしまった。


悲しさより、虚しさがわたしの体をむしばんで行く。


無視される、目を反らされる。


それは、わたしにとっては致命傷なのだ。


見てもらえないと、わたしは何も伝える事ができない。


不甲斐なさに、腹が立つ。


待って。


込み上げた感情が、わたしを動かした。


わたしは、飛び付くように、健ちゃんの腕を掴んだ。


健ちゃんが立ち止まる。


待って。


わたしは、掴んだ腕を引っ張った。


ポケットからするりと腕が抜けて、健ちゃんが振り向いた。


〈待って!〉


叩きつけるように手話をして、わたしは健ちゃんを睨んだ。


〈お願い。待って〉