恋時雨~恋、ときどき、涙~

舞い上がった純白の花びらが、わたしに、幸に、降りかかる。


「雪みたいやなあ」


少量ではあるけれど、花びらは次々に舞い降り、はらりはらりと空を切るように降ってくる。


一陣の風のあと、次々に断続的に吹き抜けて行った。


はらはらと舞う花びらの向こうで、不思議な色に輝く水面が見える。


水平線の向こうから次々に、雲が流れ込んで来る。


不意に、幸と目が合った。


〈……雨〉


わたしは、幸に言った。


〈この風がやんだら、きっと、雨が降るよ〉


この風がぴたりとやんだら、きっと。


雨が降る。


10本の指を下に向け上下させるわたしを見て、


「雨? 何、言うてるんよ……降るかいな、雨なんか。こんなに晴れてんねんで」


幸はぽかんとして、頭上に広がるきれいな夕焼け色の空を360度、ぐるりと見渡した。


「な。やろ? こんなええ天気やのに、雨なんか降らんよ」


ううん、とわたしは首を振った。


そして、正面に広がる美岬海岸の向こう、水平線を指さした。


〈今、雲がやって来る。急ぎ足で。あの水面が凪いだら、夕立がある〉


きっと、降る。


水平線の向こうが不思議な色をしている。


灰色がかった、セピア色。


風が、幸の髪の毛をつやつやとなびかせる。


今吹いているこの風が止まったら、一気に、雨が降るから。


オープンテラスのパーティー会場は、濡れてしまうだろう。


〈気を付けて、って。そう、順也と静奈に伝えてね〉


「何やの……せやから、降らんて。雨なんか」


だから、降るんだって。


わたしには、分かる。