恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは右のポケットにメッセージカードを突っ込み、上からぽんと叩いた。


〈これと〉


左のポケットにひまわりの髪飾りを突っ込んで、また上からぽんと叩く。


〈これ〉


そして、両手のひらを幸に見せて笑った。


〈あとは、何も要らない。必要ない〉


「ほう。こりゃええわ! 真央、あんた」


腹、くくりよったな、幸が真っ白な歯をこぼれさせた。


せや。


せやで、幸。


腹、くくったわ、わたし。


もう、腹くくったんやで、幸。


耳の短いうさぎがな、腹をくくりよった。


「よっしゃ。行って来い」


ぽん、と幸がわたしの肩を弾く。


「腹くくった女はな、強いで。怖いもんなしや!」


わたしが駆け出そうとした瞬間だった。


この体が持って行かれそうなほど強い一陣の風が吹いて、芝生に散ったブーケの花びらもほこりも、一気に舞い上がった。


疾風のごとく吹いた風が、くるくる、花びらを舞い上がらせる。


「何やねん、この風!」


乱れた髪の毛を両手で押えながら、幸がその場にしゃがみこむ。


突風にしてはずっしりと重く、湿った風だった。


鼻の奥がつーんとした。


塩素を含んだ、風の匂い。


はっとした。


雨のにおいがする。


風が、芝生を切り取るように駆け抜ける。


プルメリアの花びらが数枚、舞い上がった。


うわあ……。


わたしは、たまらず息を飲んだ。


両手を広げる。