恋時雨~恋、ときどき、涙~

静奈に恋してしまいそうやった、と幸は本当に恋する乙女にでもなったかのように、頬を薄紅色に染めて両手を動かした。


『順也が居ない人生は、考えてない。考えた事もない。過去も今も、未来も』


「私の人生には、いつだって、順也がいる、て」


最高にカッコ良かったんやで、そう手話をして、幸は嬉しそうに正面に広がる水面を眩しそうに目を細めながら見つめた。


幸の横顔があまりにも美しくて、わたしはすっかり見惚れてしまった。


幸の長いまつ毛の先に夕日が当たって、細かく細かく、琥珀色に輝いていた。


「あの時な」


幸が、わたしの方に向き直る。


「あの時、めっちゃ、後悔した」


幸……?


わたしは、不安になった。


向き直った幸が、今にも泣きそうな顔になっていたからだ。


「静奈が、ほんまに、うらやましかったんや。うち」


切なそうに、苦しそうに、幸が表情を歪めて両手を動かす。


ヌーディーカラーのネイルが、夕日に照らされて、神々しく変色している。


「うちはちゃんと、あらしに伝えとったんやろか。ほんまの気持ち、なりふりかまわんと、伝える事ができとったんやろか。よう、わからん。ほんまは、まだ、全然伝えきれてないんちゃうかって」


わたしは、ハッとして無意識のうちにひまわりの髪飾りを強く握りしめていた。


髪飾りが、手のひらに食い込んでしないそうなほど、強く。


「なんで、あらしが生きとるうちに、もっと伝えることができなかったんやろ。今更、遅いんやけど。もう、会えへんからな。伝える事ができんのやけど」


つつ、と陶器のような頬を伝い落ちたのは、幸の恋の雫だった。


幸の後悔が、痛いほど伝わってくる。


「うざいわ、て。煙たがられるくらい伝えとけば良かったわ。好きや、て。どうにもならんくらい好きやって。もっと、もっと、伝えとけば良かったわ」


大好きやって、そう添えたあと、幸は小さな両手で、小さな顔をすっぽりと覆い隠し、肩を震わせて泣いてしまった。


幸……。


今にも折れてしまいそうな華奢な肩をふるふる震わせて泣く幸を見ていられなかった。


たまらなかった。


幸はいつも笑っているからこそ、たまらなかった。


わたしは、小さな顔を覆う幸の手の甲にそっと触れた。


びくり、と幸が反応する。


両手を外して、泣き顔の幸が言った。