恋時雨~恋、ときどき、涙~

そうだね、と返すと、突然、幸がにやりと口角を上げた。


クイズや、と幸が言い出した。


「さて、質問です。あのふたり、どっちがプロポーズしたでしょうか?」


なんだ。


そんなことか。


そんなの、答えは簡単だ。


〈順也〉


即答したわたしを見て、幸は自分の額を手のひらで叩き、


「あかーん。これやから、あかんねーん」


と肩をすくめてにたにたしながら、親友がこれやから呆れてまうわー、と息を吐いた。


〈違うの?〉


「ちゃう」


〈……じゃあ〉


「せや。静奈や」


ひっくり返るほどではなかったけれど、てっきり順也だと思っていたわたしは、確実にびっくりだった。


「あの頃な。静奈の親が、ふたりの交際を猛反対しとってな。最初は頑張っとった順也くんもさすがに参ってもうたんやろな」


ある日、親と口論になった静奈が、幸のアパートに押しかけて来たらしい。


その静奈を追いかけて来た順也が、こう言ったのだ。


もう、別れよう、しー。


「静奈は絶対別れないて言い張るんや。せやけど、順也くんも、その時ばかりは折れへんかった」


『しーの親が反対するの、当たり前だよ。だって、ぼくはこの通りの障害者だから』


『反対を押し切ってこのまま一緒に居るぼくたちに、幸せな未来はあるのかな。無いような気がするんだ』


「そしたらな。それまでめそめそ泣いとった静奈が、急に吹っ切れた顔になってん。じゃあ、結婚しよか、言い出したんや」


予想外もいいとこやで、人ん家でプロポーズや、さすがに驚いたわ、と当時の状況を思い出したのか、幸が吹き出して笑った。


「順也くんのあの時の顔、少しな、ウケてもうたわ。豆鉄砲くらった顔しとった。せやけど、だんだん、泣き顔になってな」


『しーは、それでいいの? 後悔、しないの?』


「後悔しないんか、て泣いてしもたんや。順也くん」


『しーの行きたい所に連れて行くこともできない。しーに、子供産ませてあげることもできない』


『普通の事、普通にさせてあげる事ができないんだ。それでも、しーは平気なの?  後悔、しないの?』


「そん時、静奈、何て言うたと思う? うち、ドッキドキしたで」