恋時雨~恋、ときどき、涙~

「これも、またひとつの運命に過ぎないと思うよ。ぼくは、そう思う」


〈これが運命だと? だったら、わたしは、その運命を恨む。憎む〉


睨むわたしを見て、順也はやわらかく笑った。


「どうして? だから、言ったじゃないか。運命は繋がっているんだって。だから、恨まないで」


だって、こんなことが運命だというのなら、なんて残酷なの。


小さく肩をすくめたわたしに、


「これも、運命を繋ぐための条件だとしたら、乗り越えられると思うんだ」


ぼくと同じだよ、と順也は言い、


「ぼくが、あの日、事故に遭って歩けなくなったことも、ひとつの条件だったと思うからね」


と人差し指で、メモ帳に記されたその文字をなぞった。


【失声症】


「健太さんの声が出なくなったこと。運命を繋ぐための条件なんじゃないかって、ぼくは思う」


緩く、穏やかに凪いだ潮風が、芝生の上を転がるように吹き抜けて行った。


静奈のドレスのレースを、幸のつやつやの髪の毛を、風が揺らした。


わたしと順也は少し長い時間、見つめ合った。


わたしの耳が聞こえない事も、順也が歩けなくなった事も、その条件というものだとすれば。


条件を乗り越えたら、そこには運命が繋がっているというのだろうか。


だとすれば、この条件を乗り越えた先にある運命は、どんなものなのだろう。


〈あの、順也……〉


と顔を扇いだわたしににっこり微笑んで、


「さてと。そろそろ、行こうか。パーティーに」


順也が車椅子に座り直した。


「あーっ!」


どうやら、幸が大声を出したらしい。


順也がぎょっとした顔で、静奈がしかめっ面で耳を塞ぎ、幸を見つめている。


「せやったわー! あっかーん! うちとした事が、何ちんたらぬかしとんねん! あほ! うちのあほ!」


ぽかぽか、自分の頭を叩いたあと、幸が順也と静奈を順番に指さした。


「うち、あんたらの事、探しに来たんやった! 花嫁と花婿が居らん、て、会場は大騒ぎやで!」