恋時雨~恋、ときどき、涙~

「本当は、会いに来たんだよね? 健太さんに」


にっこり、静奈が微笑む。


静奈が笑うと、ふわりと吹いた風がその長いまつ毛を揺らした。


「そうだよね? 本当は、この返事をしに、伝えに、来たんだよね?」


そうだ。


わたしは頷いた。


「なら、伝えなきゃ。いいの? 追いかけなくても。すれ違ったままで、いいの?」


少し長い間を置いて、もう一度、わたしは頷いた。


いい。


もう、これでいいのだ。


「じゃあ、なんでこれ、捨てずに持っていたの? ここへ、持って来たの?」


必要ないなら代わりに捨てておくけど、と静奈がわたしからメッセージカードを奪おうとした。


わたしはとっさにその手を払い、カードを胸に抱きしめた。


「素直じゃないなあ。そんな事、昔から分かってはいたけど」


優しく、やわらかく、菜の花が風に揺れるように、静奈が笑った。


「健太さん、まだ、帰っていないと思う」


え、と顔を上げると、今度は順也の手がすうっと伸びて来て、メッセージカードを指した。


「これ、捨てる気なんて、さらさらないんでしょ?」


「返事せな、何も始まらんし、始まらんっちゅうことは、終わることもないんやで。一生な」


と幸が続けた。


「我慢するだけの、見よるだけの恋で終わらせるんか?」


幸が、わたしの右肩を叩く。


「伝えたい事があるのなら、伝えて欲しい。だって、今伝えないで、今度はいつ伝えるつもりなの? 今度は、いつ、来るの?」


と、静奈がわたしの左肩を抱いた。


「ねえ、真央」


順也が真正面から、わたしに言った。


「このままで、いいの? こんな最後でいいの?」


いいわけがないじゃない。


わたしはふるふる首を振り、芝生に落ちていたメモ帳を掴むと、そのページを開いて順也に差し出した。


メモ帳を見た順也の目が、切なげにくるりと動く。


〈だけど、どうすればいいの? どうすれば、健ちゃんにわたしの全部を伝える事ができるの?〉


そのページを見つめたあと、順也はゆっくり顔を上げて、言った。