恋時雨~恋、ときどき、涙~

「彼って?」


わたしは頷いた。


〈人魚姫〉


わたしの両手を見つめる順也の表情がゆっくりと、明らかに曇り始めた。


「人魚姫? 何の話? 彼って、誰のこと?」


順也の背後に居た静奈も、


「真央、どういうこと?」


と、怪訝な面持ちでわたしに詰め寄った。


わたしは、メッセージカードを強く握った。


これをわたしに届けてくれたのは、幸じゃない。


店長だった。


〈彼が、言った〉


眉間にしわを寄せて、順也と静奈が顔を見合わせる。


〈人魚姫の結末は、ひとつじゃない、と〉


店長が、教えてくれたのだ。


まだ、何も終わっていないこと。


〈人魚姫の結末は、君が作れ、と〉


物語にはいくつもの結末があって、だけど、本当は正確な結末などなくて、全ての物語は誰も知らないところで、ひっそりと続いているのだと。


〈返事をして来いと言ってくれた〉


無心になって手話をするわたしに、「真央」と順也が顔を扇ぐ。


「何? 何を言っているの? ぼくには意味が……」


怪訝な顔の順也が、わたしの顔を覗き込んだ時、


「真央。これ」


と、静奈が芝生の上からスマホを拾い、差し出して来た。


受信のライトが、虹色に点滅している。


「ライン、来たみたいだけど」


タップしてみると、それは、店長からだった。