恋時雨~恋、ときどき、涙~

「そのあと、健太さん、誰かに電話していた」


ハッとした。


きっと、わたしのお母さんに掛けていたのだろう。


『幸せにしてあげられなくて、ごめんなさい、って』


『たくさん泣かせてしまいました、すみません、って』


「電話を切ったあと、健太さん、改札前のコンビニのゴミ箱に向かって、こうやって」


と、その時、健ちゃんがしたという手話を、順也が始めた。


「絶対、真央の事だと思ったよ」


君、と順也がわたしを指さす。


右手の人差し指と左手の小指を、中央に引き合わせる。


「君に、出逢えて」


右手の握り拳を鼻に当て、ゆっくり前方に出しながら、順也は言った。


「君に出逢えて、良かった。そう手話をして、健太さん、ゴミ箱に何かを捨てたんだ。そして、こうやって」


いつか、返事を、聞かせてきださい。


そう手話を残して、健ちゃんは駅から立ち去ったのだと、順也が教えてくれた。


「健太さんが帰ったあと、ぼくは急いでゴミ箱に向かったんだ。それで、これを拾った」


これ? 、とメッセージカードを差し出すと、


「そうだよ。見た時、すぐに分かったよ」


と順也が穏やかに微笑んだ。


「これ、真央の事だよね? そうだろ?」


順也の指が「短い耳のうさぎ 様」をすすすとなぞった。


わたしは小さく頷いた。


「そう。それで、これをさっちゃんに見せたらね」


『あかーん! これは、何が何でも、真央に渡さなあかんもんやで! うちが死んでも渡すで』


「って、春には自分も上京するから、預かるって」


〈そうだったんだ〉


「うん。さっちゃん、ちゃんと持っていてくれたんだね。それで、本当に、真央に届けてくれたんだね」


違う。


わたしは小さく首を振って、


〈彼が……彼が、返事をして来いって〉


肩をすくめ、順也を見つめた。


「彼?」


順也が不思議そうに首を傾げる。