恋時雨~恋、ときどき、涙~

離せ、離せ、ともがき、静奈から逃れようとする順也が、大きな大きな口で言った。


「それで諦めるなら、それくらいしか好きじゃなかったんだ! 健太さんのこと! そうだろ!」


違う!


ぐわあ、と得体の知れない何かがわたしの中の奥底から込み上げて、手が勝手に動いていた。


わたしはハンドバッグを掴み、持ち合わせている力を全て込めて、順也に叩きつけた。


同時に、順也の体も突き飛ばしていた。


芝生に尻もちをついた順也に、ハンドバッグから飛び出した物たちがばらばらと降りかかった。


「真央! 落ち着いてったら!」


慌てた静奈が、順也の背中を支える。


そんな静奈を後ろへ突き飛ばして、


「触るな! ぼくにかまうな!」


順也がわたしを獣のような目でぎらりと睨んだ。


「真央!」


平気。


どうぞ、もっともっと怒鳴って、声が出なくなるほど叫べばいい。


大きな大きな口を開けて、わたしに怒鳴り散らせばいい。


わたしは何も怖くないし、驚いたりしない。


「いい加減にしろよ、真央!」


どうせ、その声など、わたしの耳に届く事などないのだから。


睨み返したわたしに、順也が散らばったメイクポーチを叩きつけるように投げて来た。


「どうして、ぼくの気持ち理解しようとしないんだ。どうして、健太さんのこと、分かろうとしないんだよ!」


うるさい!


知りたくない!


分かりたくもない!


順也だって、そうじゃないか。


わたしの気持ち、分かってくれないじゃないか。


わたしだって、本気だった。


大好きだった。


健ちゃんへの想いは、本物だったのに。


だから、別れるしかなかったのに。


どうして、分かってくれないの。


誰も、分かってくれないの。


〈本当は、別れたくなかった!〉