恋時雨~恋、ときどき、涙~

夕日をぎらりと弾き返しながら、髪飾りが順也の左目尻をかすって、芝生に落ちる。


「なんだ。それで終わり? 悔しかったら、もっと、全力でぶつかって来い」


毛穴という毛穴から熱い熱い蒸気が噴出している気がした。


ならば、この際、ぶちまけてやろうかと思った。


わたしは順也に飛び付いて、耳を掴んだ。


これ、が欲しい。


〈耳が欲しい〉


うん、と順也が頷く。


「それで? あとは?」


みんなと同じ、音が聞こえる耳が欲しい。


欲しくて、たまらない。


聞こえる耳さえあれば、声の出し方だって分かる。


わたしは順也の口に、手のひらを押し当てた。


〈想いを、声にして、伝えたい〉


静奈と幸と、順也と。


みんなとおしゃべりをして、大きな口を開けて、思いっきりお腹の底から笑ってみたい。


「そう。それで?」


まるで、それがどうかしたの、だから何? 、とでも言いたげな順也にいらいらする。


悔しさと苛立ちで、両手が震えた。


〈なぜ、わたしでなければならなかったの?〉


悔しくて、だけど、どうする事もできない。


わたしの耳が聞こえる事は、この先、一生ないのだ。


どんなにあがいても、ない。


それが分かっているからこそ、悔しくて、泣けてくる。


〈どうして、わたしの耳は聞こえないの? なぜ、わたしなの?〉


他の誰かでも良かったじゃないか。


ごまんと人があふれている中で、なぜその鉄砲弾はわたしの耳に命中してしまったのだろう。


わたしは、静奈の耳を順也の耳を、じゅんばんに指さした。


〈みんな、耳が聞こえなければいいのに。なぜ、わたしでなければならなかったの?〉


いっそ、切り落としてしまいたい。