恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央はちっとも可哀想じゃない! 可哀想なのは、真央の」


順也の人差し指が、わたしの心臓に突き刺さる。


「心。真央の気持ちが、可哀想だ」


わたしの、気持ち?


鋭くつり上がった順也の目尻が、叱られてしゅんとする犬のしっぽのように垂れ下がった。


「いつも我慢して、強がって。平気な顔しているけど、本当は弱くて。押さえつけられてばかりの真央の気持ちが、可哀想だ」


だって。


だって、そうするしかない。


だったら、どうしろというの。


わたしの頭はぐるぐる回り始めて、もう、何が何なのか訳が分からないくらい、絡まっていた。


〈じゃあ、どうしろって言うの?〉


ぶっきらぼうに、吐き捨てるような手話をして、


〈順也が代わってくれるとでも言うの? 順也は、わたしに、耳を譲ってくれる?〉


わたしは、順也のタキシードの襟に掴みかかった。


下さい。


誰か、わたしに、譲ってください。


わたしに、下さい。


耳を……音が聞こえる耳を、ください。


「何、ばかな事言うんだよ! 真央の分からず屋!」


うるさい。


うるさい、うるさい!


わたしと順也はまるで取っ組み合いをするかのように、芝生を上に下になりながらごろごろ転がった。


そして、草とほこりまみれになりながら、芝生をのたうちまわった。


わたしが引っ張ったせいで、順也のタキシードが無残に乱れ、ネクタイがとれてしまった。


「真央はばかだ! 憶病者だ!」


わたしは芝生をむしり取り、草を順也の顔に投げつけた。


「何するんだよ!」


そんな事、大好きな順也に言われなくても、この自分がいちばん分かっていたことだ。


「真央は、逃げているだけだ!」


順也がくわっと歯をむき出しにして、わたしのワンピースに付いていたバラのコサージュをむしり取った。


「我慢して、我慢して、我慢ばかりして!」


コサージュを、順也がわたしに投げつける。


水色のコサージュが頬をかすめて、芝生に落ちた。


「言え! 言ってみろ! 言いたい事があるなら、ぼくに言え!」


まるで挑発するような順也の目つきに、たまらずカッとなった。