恋時雨~恋、ときどき、涙~

「順也! もうやめて」


止めに入って来た静奈を片手で押しのけた順也は、わたしを見ながら、でも、静奈に言った。


「いいんだ、このくらい。もっと言ってやらないと、真央は分からないんだ」


そして、大きな口で、わたしに次々と言葉を落とした。


「頑固。強情。意地っ張り」


順也の両手が言った。


「そうやって片意地張って、これからも生きて行けばいいよ!」


悔しい。


「そうやって、いつも壁を作って、生涯孤独な悲劇のヒロインを演じて生きて行けばいよ」


なによ。


何よ!


順也に、わたしの何が分かるというの!


順也は幸せだから、そうやって、偉そうに言えるんだ。


結局、順也だって、わたしをそんなふうに見ていたくせに。


可哀想な、悲劇のヒロインだって。


優しいふりをして、お兄ちゃん面をして、だけど、心の中ではそう思っていたんだ。


〈悲劇の、ヒロイン?〉


「そうだ」


わたしは、順也の顔の前に、両手を突き出した。


〈わたしは、かわいそうじゃない!〉


悲劇のヒロインなんかじゃない。


「かわいそうだ! かわいそうで、見てられないよ」


〈どこが? わたしの耳? はっきり、言えばいい〉


わたしは、順也を睨みながら、耳を引っ張った。


「違う! 耳なんかどうでもいい。真央の耳のことを可哀想だと思ったことは一度もない!」


うそだ。


わたしは、順也の胸を殴った。


順也は、優しいうそつきだ。


〈ウソ! だって、可哀想ってそういう事でしょ? 耳が聞こえないから、だから〉


「違う!」


わたしの手話を押え付けて、順也が肩を上下させながら言った。


「何で分からないの? 可哀想って、耳のことじゃない」


わたしも、興奮を抑える事ができなかった。


〈分からない!〉