恋時雨~恋、ときどき、涙~

どんなに頑張っても、それに、弾き返されてしまう。


〈この耳が〉


わたしは、耳を強く指さした。


〈いつも、わたしを、追いかけて来る!〉


逃げても、逃げても、しつこく、わたしに付きまとう。


わたしの障害物になる。


〈順也はいいね。耳が聞こえるから。みんなのが、うらやましい〉


順也は口を真一文字に結んだまま、じっとわたしを見つめていた。


〈耳が聞こえる人間に……幸せな順也に、わたしの気持ちは分からない!〉


ばかみたいだ。


わたし、何てつまらない事を言っているんだろう。


情けなくて、悔しくて、泣けてくる。


だけど、止めることができなかった。


わたしは、順也に嫉妬していたのかもしれない。


〈分かる? 耳が聞こえない事が、どんなに寂しいことなのか〉


わたしの毎日は、孤独だ。


周りにはたくさんの人が居て楽しそうに話している。


そして、その輪の中に確かにわたしは居るはずなのに、いつも、ひとりぼっちという気がする。


〈友達、家族、好きな人たちの声を、一度でいいから聞いてみたい。でも、わたしにはそれができない〉


どんなに努力をしてもそれだけは、どうにもならない。


いつも悔しい思いをするけれど、どうにもならないから、我慢する。


我慢する、それしか方法がない。


〈わたしは音を知らない! 声がどんなものなのかも、分からない!〉


悔しい。


手話だって、限界がある。


伝えきれないことだってある。


〈みんながうらやましい!〉


とわたしは順也の肩を突き飛ばした。


順也が「痛い」と顔を歪めた。


ほら、こうだ。


悔しさを伝えたくても、こうして力ずくで、力で表現するしかない。


歯がゆくて、腹ただしくて、屈辱で。


いつも、情けない思いに、奥歯を噛み砕いて生きて来た。