恋時雨~恋、ときどき、涙~

汐の香りを含んだやわらかな風が吹き抜けて行った。


芝生に転がっていたブーケが、ころりころりと2転3転する。


〈わたしも同じ! 聞きたくても、聞く事ができない!〉


固まる順也に、わたしはぶつかるように飛び付いた。


その勢いで順也の体はぐらりと後ろへ倒れ、今度はわたしが馬乗りになった。


〈わたし、分からない! 健ちゃんの気持ちが分からない! 分かりたくても、聞く事ができない!〉


こんな耳だから。


「真央」


順也が悲しそうな目で、わたしを見上げていた。


〈いっそ、わたしの事なんて、綺麗さっぱり忘れてくれたら良かったのに!〉


そして、わたしも。


あのひだまりに包まれていた過去を、忘れる事ができていたら良かったのに。


「どうして! 何で分からないんだ! 何で分かろうとしないんだよ!」


突然、順也は人が変わったようにわたしの腕を掴んで、大きな口で言った。


「真央は意気地なしだ! 怖がりで、憶病で! いつも、逃げてばかりじゃないか!」


生まれて初めて、順也にカッとなった。


そんな事を、まさか順也に言われるなんて思ってもいなかった。


「真央は、憶病だ!」


悔しくて、悔しくて、頭に血が上った。


〈順也に、わたしの気持ちなんて分からない!〉


大好きな静奈と結婚できて、幸せな順也に、わたしの気持ちが分かるはずない。


一生、分かるもんか。


両足の障害を乗り越えて、静奈の両親に受け入れてもらえた順也に、わたしの惨めな気持ちなんて。


〈分からないくせに!〉


結局、わたしは誰にも受け入れてもらえないのではないだろうか。


いつだって、そうだ。


うまく行きかけると、必ず、どんでん返しがわたしを待っている。


どんなにかわそうとしても、それは、わたしの前に立ちはだかる。


どんなに乗り越えようとしても、それが、わたしの邪魔をする。