恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ぼくたちは、ただ、幸せになりたいだけなのに。みんな、ただ、幸せになりたいだけなのにね」


わたしは、急に不安になった。


順也が壊れてしまいそうな気がして、このまま、順也が小さくなって消えてしまいそうな気がして、怖くなった。


こんなふうに、全身で泣く順也を見たのは、生まれて初めてだった。


わたしはとっさに順也の手を掴んで、なだめるように首を振った。


もう、いいよ。


もう、そんなふうに、わたしのことで泣かないで欲しい。


わたしなら、大丈夫だから。


順也の手が、細かく震えていた。


「ごめんね、真央」


そう言った次の瞬間、順也は人が変わったように、荒々しい手話をした。


「ぼくの足がこんなのじゃなかったら、こんな事になる前に、駆けずり回ってでも真央を探す事ができたのに!」


順也とは思えないほど荒々しい手話は、かえってわたしを冷静にした。


「こんな事になる前に!」


荒々しくて乱暴に動く両手を捕まえて、わたしは静かに首を振った。


その様子を見て、順也は察したのだろう。


「そう。知っているんだね。健太さんのこと」


わたしはこくりと頷いて、順也の正面にしゃがんだ。


向こうに見える礼拝堂を指さす。


〈さっき、亘さんと話した。亘さんが、教えてくれた〉


今の、健ちゃんのことを。


そう、とうつむいた順也の目から、透明な滴がぽとりと落ちる。


〈順也〉


顔を扇ぐと、弾かれたように順也が顔を上げた。


〈ひとつ、聞きたい事がある。教えて〉


「何?」


あのひとは……。


〈健ちゃんは、今、どこに住んでいるの?〉


えっ、と不思議そうな面持ちで、順也は首を傾げながら答えた。


「前と変わらないよ。あの、アパートに」


と言いかけた順也に〈ウソ〉と首を振った。


〈亘さんが言っていた。健ちゃんは、もうこの町には居ないって〉


「え……」


順也の眉間にしわが寄った。